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契約書を電子化するときの注意点

2023.6.27

デジタル化が進む現代では、契約書を電子化して保存する企業が増えています。

契約書の電子化は紙やインクにかかるコストを削減できると同時に、保管スペースの削減にもつながることから、実施を検討している企業も多いのではないでしょうか。

契約書は単にスキャンしてデータ化すれば良いというものではないため、注意しながら行うことが大切です。

この記事では、契約書を電子化するメリットや注意点、スキャンするときの要件などについて詳しく解説します。

契約書はスキャンして保存できるのか?

紙の契約書をスキャナで読み取り、電子的に保存することは法律で認められていますが、適切に保存および保存した契約書に法的効力を持たせるためには一定の条件を満たす必要があります。

契約書の電子的な保存で重要になるのが電子帳簿保存法と民事訴訟法であり、それぞれ契約書の扱い方が異なります。

契約書を正しく保存するためにはそれぞれの内容を把握しておくことが大切です。

ここでは、電子帳簿保存法と民事訴訟法の概要を紹介します。

電子帳簿保存法

電子帳簿保存法とは、日本国内で事業を行う個人事業主や法人が、請求書や支払明細書などの紙の国税関係書類や帳簿を電子データで保存することを認めた法律のことです。

電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引の3つに区分されており、スキャナ保存では紙で作成もしくは受領した書類をスキャナで読み取り、電子データとして保存することができます。

電子帳簿保存法では、スキャンしてデータ化した契約書を原本として認めています。(電子帳簿保存法第2条第2号、第4条第3項)

民事訴訟法

民事訴訟法とは、民事紛争を解決するための手続に関する法律です。

契約書に何らかの不備があった場合や当事者に不利益をもたらした場合、債務の不履行などがあった場合の裁判で用いられます。

民事訴訟法においては、スキャンされた契約書はあくまで複製であり、原本として認められていません。

民事訴訟規則

(文書の提出等の方法)
第143条 文書の提出又は送付は、原本、正本又は認証のある謄本でなければならない。
2 裁判所は、前項の規定にかかわらず、原本の提出を命じ、又は送付をさせることができる。

民事訴訟法

(文書に準ずる物件への準用)
第231条 この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。
※この節=第五節 書証

※民事訴訟の際の証拠物件が必要な場合には原本の提出が求められています。

ただし、裁判官の証拠調べの対象となる準文書として扱われるため、一定の法的効力は認められています。

契約書を電子化するメリット

契約書の電子化は企業にとってさまざまなメリットをもたらします。

ここでは、契約書を電子化するメリットを3つ紹介します。

閲覧・共有がしやすくなる

スキャナで読み取り、電子化した契約書は閲覧・共有がしやすくなります。

従来の紙媒体の契約書を閲覧する場合、実際に保管場所に足を運び、該当書類を探すのが一般的でした。また、契約書は一つしか存在しないため、閲覧できるのは1名のみです。

しかし、電子化された契約書はネットワーク上に保存されるため、わざわざ足を運ばずとも自身のパソコンで内容を閲覧することができます。

複数名で同時に閲覧することも可能であるため、業務の効率化につながります。

管理・保管がしやすくなる

契約書を電子化することで、契約書の管理・保管がしやすくなります。

これまでの契約書は物理的な保管スペースが必要であったことに加え、火災や災害による消失や悪意のある第三者による盗難などのリスクがありました。

契約書を電子化すれば、複数の場所にデータのバックアップがとれるため、これらのリスクを回避することができます。

また、データにアクセス権限を付与することで、部外者による閲覧も防止できるため、契約書の電子化はセキュリティ対策としても有用です。

検索性が向上する

契約書を電子化することで検索性を向上できます。

紙の契約書は、無数にある書類のなかから該当書類を探し当てる作業が必要でしたが、電子化すればパソコン上で簡単に見つけられるようになります。

契約書を電子化する注意点

契約書の電子化は想像以上に時間や手間、コストがかかります。

また、電子化した後の原本の取り扱いや裁判での証拠力についても考えなければならないため、注意が必要です。

ここでは、契約書を電子化する際の注意点を4つ紹介します。

作業に手間がかかる

契約書の電子化は想像以上に手間がかかります。

紙の契約書は多くの場合、ホチキスや付箋などが付いており、スキャンするためにはそれらをすべて外さなければなりません。

また、スキャンした後は元となった契約書の現状回復も必要であり、スキャン前後に多くの手間がかかります。

使用するスキャナによっては時間と人的コストがかかる

契約書の電子化は使用するスキャナによっては膨大な時間と人的なコストがかかります。

特に製本(袋とじ)されている契約書の場合、フラットベッドスキャナと呼ばれる平らなガラス面に書類を一枚ずつセットして読み取ります。この場合は時間がかかるだけではなく、スキャナを操作するための人員が必要です。

自動化はできず、常に人の手が必要なため、相応のコストがかかります。

原本を破棄できるとは限らない

電子帳簿保存法では、スキャンして電子化したデータが原本となるため、紙の原本は破棄しても問題ありません。

しかし、前述したように、民事訴訟法では電子化された契約書は原本として認められません。

法的効力がないわけではありませんが、訴訟での証拠力は弱くなることだけは念頭に置いておく必要があります。

契約書スキャンの要件

契約書をスキャンして電子データとして保存するためには、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。

紙の状態で締結した契約書を電子化する際は「スキャン保存」、これから新規で電子契約を締結する場合は「電子取引」の要件を満たす必要があるため、注意しなければなりません。

スキャン保存の要件は以下の通りです。

  • ●  入力期間の制限
  • ●  適切なスキャナの使用
  • ●  タイムスタンプの付与(注1)
  • ●  ヴァージョン管理
  • ●  スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持
  • ●  見読可能装置の備付け
  • ●  整然・明瞭出力
  • ●  電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付け
  • ●  検索機能の確保
  • ●  過去分重要書類の適用届出(※過去分のみ)

(注1)訂正削除履歴が残る時刻証明機能を備えたシステムに保存する場合は、タイムスタンプは不要です。

データ化した契約書に法的効力を持たせるには、上記の「適切なスキャナの使用」「タイムスタンプの付与」「検索機能の確保」が特に重要になります。

適切なスキャナとは、データを閲覧した際に4ポイントの文字が認識できる解像度等の設定が求められます。しかし、これは一般的なスキャナでも満たせるため問題はありません。

また、厳密にはスキャナで読み取らなければならないという定めはないため、スマホのカメラでも対応できます。

電子帳簿保存法におけるタイムスタンプとは、付与時点で電子データが存在していること、付与後に内容が改ざんされていないことを証明するものです。

検索機能は電子化したデータを検索するためのものであり、取引年月日、取引金額、取引先など、任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できる必要があります。

まとめ

この記事では、契約書を電子化するときの注意点について解説しました。

契約書の電子化は閲覧・共有や管理・保管がしやすく、検索性が向上するため電子化するメリットは大きいですが、民事訴訟規則では準文書としての扱いになるため、原本と同等の証拠能力と認められない可能性があります。

訴訟リスクの観点からは、電子化後も法定保存期間内は廃棄せず、紙で保管しておく必要があります。

契約書は単にスキャンすれば良いというものではなく、法律を遵守し、適切に行わなければなりません。

細かな要件も定められているため、契約書の電子化を実施する際は、最新の情報を確認しながら行うことが大切です。

株式会社PDC』では、ホチキスや付箋の除去など電子化前後の面倒な作業も代行いたしますので、効率的に電子化を進めたいとお考えでしたら、ぜひ一度お気軽にご相談ください。